弟見谷散策
 柿木村で最高峰の山といえば弟見山(1085m)、これは山口県との県境の山でもある。今から数十年前まで、この山の島根県側は原生林で覆われていた。次々と失われていく森、その大切さはわかっていても、何も言えなかった。多くの人が生活の糧を得ていたからだ。

そのとき保存運動に立ち上がったのは、山口県の山岳愛好者たちだった。その結果一部ではあるが残された森があると聞き入ってみた。

柿木村椛谷の白井地区、ここにある愛宕神社、ここから100mばかり入ったった所で白井谷川は二つに分かれる。地元の人に尋ねると、弟見山山頂に向かうあたりは「ドゥノオク」、左に分かれる谷あたりを、「オトトミ」と言うのだそうだ。

残された森はこの「オトトミ」の奥にもあると聞き、平成16年3月28日妻と二人尋ねてみた。

破線(赤)は今回歩いたルート
 大物のゴギがひそんでいそうな個所があちこちにあり、実際にそれらでは大きくはないが、ゴギが泳ぎ回るのが見られた。この谷はなだらかで、かつては大きなゴギが数多くいたと言う。 戦中に朝鮮からの人が多く入り炭を焼いたと言われ、大きな炭焼き窯跡があちこちに見られる。オオキツネノカミソリの大群落も見られた。
約1時間、ここからは千古より斧を入れない森が広がる。森の神々に「入らせていただきます」と心の中で挨拶をする気になる。
谷沿いに歩くせいかトチノキが圧倒的に多く、それらは直径1m前後のものが多い。今の木々は葉を落としていて明るいが、初夏にはうっそうとした森になるのは間違いない。谷から少し上がったあたりから稜線近くには、ブナの大木も多く見られる。

弟見谷の様子

トチノキの巨木が多い

尾根に近いところのブナ

真っ直ぐに伸びたサワグルミの巨木など

倒木に着生しているナツエビネ

この谷で見た最大のトチノキ


 もし季節が秋ならば、ふと見ると縄文人たちがトチの実を拾い集めている。そんな光景がみられても何ら不思議ではない、そんなトチノキの森なのだ。

谷幅は狭くなりで2つに分かれる。少し小さい方が縦走路に近い沢、ここからの笹は半端なヤブではない。最後の50mほどは特に急峻で笹の密度が濃い。稜線はすぐそこ、山口県側の桧の造林地も見える。桧の造林地と笹薮の間に莇ヶ岳、弟見山の縦走路があるはずである。

悪戦苦闘、やっとのことで縦走路にたどり着く。弟見山山頂到着は12:15、ゆっくりと観察しながらあるいたせか、所要時間は4時間近くにもなった。

本日弟見山山頂で出会った人7人。カタクリはまだほとんど芽を出していない、探した結果やっと1枚の葉を見つけた。

13:00 下山開始、登りで悪戦苦闘した笹薮も下りは、笹を踏み倒しながらわけもなく沢に下りることができた。

 *このルートは弟見山山頂を目指すには、遠回り過ぎるためかテープなどの目印はなく、あまり人が入らないようだ。次回は夏期、木漏れ日の中をさまよい歩きたいと思う。