吉賀記にある注連川村の記述に差相瀧(さしあいだき)がある。
差相瀧「巖石聳々として漲落上す差相瀧合掌の如して天を隠し澗庭遙にして谺(こだま)喧し因て名と成」と吉賀記は伝えている。
 この瀧を見に行かないかとN氏に声をかけた。N氏は中学校の同級生でもありこのようなことに熱心な人で、前日の電話にもかかわらず同行することになった。
 

 
 
 2017年12月2日 09:00 N氏宅を出発、悪路が予想されるため軽トラックで行く。
注連川の河内地区で聞き取り調査をすることになった。
 先日聞き取りをした内容とほぼ同じ、砂防ダムまでは車で入ることが出来るらしい。
砂防ダムまでも良い道とは言えない。入るに従い両側から木々が車体をこする。
09:30 砂防ダム到着、やっとの事で車の方向転換をし、離合できる場所に駐車する。
 ここで考えられない忘れ物に気づく。カメラをザックに入れるのを忘れたのだ! 今回の目的は差相瀧の場所の確認とその写真を撮影することにある。なのに・・・・! 団塊の世代である。・・がはじまったのかと少し情けなくなる。仕方なく聞き取り調査用に持参したタブレットのカメラを使うことにする。 09:37 N氏と共に出発する。
 かつては林道か作業道があったのだろうが、藪をかき分けながら奥へと入って行く。
 
上図はGPSの軌跡を国土地理院地形図上に描いたものです。(吉賀町注連川河内川支流、滝ヶ谷川)
 
 
  この谷川は至る所でワサビが栽培されていたのだろう。ほぼ野生に戻った状態のワサビが育っている。途中斜距離10mほどの瀧も現れる。
他にカツラの木が多い。直径1mを越える巨木もあちこちでみられる。
春、かつらの木は赤く芽吹く、まるで立ち上る炎を思わせる。
鑪(たたら)の神、金屋子神はこのかつらの木から降臨するという話を思い出す。
 この地で鑪が創業されたかは定かでは無いが、近くに大工屋敷という所がある。大工は鑪(たたら)の職長を意味する大工では無いかと考えられる。

このようなカツラの巨木が多い 画像N氏提供
 
 
  目的地の数十メートル手前で見かけた滝壺、直径は2m程度、水深も2mはありそうだ。
無い年月かけて増水時、水・土砂・岩石により切削されできたものだろう。
 
(この滝壺が「手斧淵」と言われる滝壺かどうかは不明)
 
   
  10:55 差相瀧と思われる瀧に遭遇する。 滝壺 の少し上流である。
吉賀記記述の内容にほぼ合致する景観だ。想像と異なっていたのは、落ち込む滝を想像していたが、岩としての瀧なのだろう。両岸にそそり立つ岩は二十メートルはあるだろう。下幅は約2mほど、つまり両側から垂直に近い岩盤がせり出している。
 GPSの座標は北緯34度20分22.28秒 東経131度53分28.07秒を表示する。
砂防ダムからの道のりは約1.2kmほどになる。砂防ダムからの時間は観察しながらゆっくり歩いて1時間18分かかっている。

上流に現れてきた瀧
 
   
 差相瀧合掌の如し合掌した手のようにそそり立つ岩壁、の中に入る。薄暗いほどで「天を隠し」の記述に合致する。
画像N氏提供
 
     
     
   
瀧の中から見上げた右岸上部
   
瀧下流から見た左岸岩壁
 
   
瀧の中から見た上流の様子、これ以上は上がれない! 
 
     
 
左画像は吉賀町文化財審議委員会が編集した「吉賀記を読む」に掲載されたかつての差相瀧の画像です。比較するとわかるように現在は埋まってたり、また掘れたりして様子が変わっているようです。
印がほぼ同じ箇所ではないかと考えられます。

 帰りに河内集落の人に確認したところ、間違いないという事ではあったが、その人達が子供の頃、弁当を持って行った頃とは少し様子が違い、確認に手間取ったのかも知れない。

 またこの滝(瀧)の名称について、「差相瀧」という言葉は誰からも聞かれなかった。名称は口伝では途絶えてしまい、吉賀記の記述のみに残ったのだろうか?

 他の資料に滝の下に「手斧淵」という滝壺があり、その昔 確道と言う修験者が修行したとも伝えられる。 
 
   
 このあたりでの出来事として吉賀記に記載されている事で次のような話がある。
わかりやすくするため「吉賀記を読む」から引用します。

 享保年間(1717~1736)、安右衛門という人が、ここで炭を焼いて生活していた。
ところが折々変わった風貌の子供が現れるようになったが、安右衛門は気にもとめず仕事をしていました。子供は度々現れるが、言葉が通じず、時には羽翼をだすこともあります。
またにらみつけたり笑ったりもしする。そのうちに共に大木を寄せたり、火を焚いたりして二人は仲良くなっていった。 かなりの年月が経ってからそのことを他人に話し、他の者が行ってみると何も見えなかったという。 狗賓(ぐひん)の類だったのではなかったかと言われています。
   (狗賓
(ぐひん)とは、天狗の一種。狼の姿をしており、犬の口を持つとされる