モクズ蟹の思い出 その1

 我家の父は、大正生まれ、それも限りなく明治に近い。
「男子厨房に入らず」は、常識中の常識。
その父が、1度だけ、なんと!長い菜箸を持って厨房を右往左往したことが有りました。
それが、モクズ蟹の為だったとは・・・。 

そう、その日六日市の方から活きたモクズ蟹を一斗缶に入れて持ってきて下さった方がいらっしゃいました。
多分、この日初めて我家では、活きたモクズ蟹を自分の家で調理することになったのだと思います。
そうでないと、こんな事件は起こらなかったのです。
 
日頃、美味しい魚や肉という物は、よく熱した油またはお湯、調味料等へ一気に入れて
美味しさを逃さないのが、コツ。と言っていた母です。
その日も大きな鍋にたっぷりのお湯を沸騰させ
さあ、モクズ蟹さん、ありがとう!美味しく茹だってね!とやったからさあ大変です。
そう簡単にモクズ蟹全員が、一気に鍋に入るわけも無く、脱走したカニの動きの早い事。
 
母も姉も私も皆で菜箸を持って悪戦苦闘したのですが、
怖いのもあって上手く捕まえられず、大騒ぎになりました。
 
そこへ、我家の救世主、父登場です。
「何をしとる?きみたちゃ、しょうがないねぇ〜。よし!かしてみぃ(箸を貸してごらんの意)」
と父独特の口調で現れ、厨房へ。
素早くカニを捕獲しては、鍋へ。
捕っては、鍋へ。
その数、?匹だったか覚えてはいませんが、父は、最期の1匹まで頑張って鍋に入れてくれました。
父よ、その節は、ありがとうございました。
 
後にも先にも父が、箸を持って厨房に立った思い出は、このモクズ蟹追っ掛けの料理以外ありませんでした。
父よ、あなたは、えらかった。
男の沽券に関わることと、どんなにか、心の中では躊躇したことでしょう?
その時の心境を今は、聞くことも出来ず残念です。
今、父も天国でこの話を私がしているのを聞いて苦笑いをしていると思います。
思うに、余程食べたかったのでしょうね・・・違うか?
 
後で分かった事ですが、生きたカニを茹でる時は、
水から入れて蓋を閉めて茹で上がるのを待たなくてはいけなかったのです。
皆さんもお気をつけ下さい。
 
それにしても有難いことでした。
父の一生懸命なあの姿。
今もよ〜く覚えています。
モクズ蟹さんのお陰です。
 
やはり父も好物だったに違いありません。モクズ蟹を。
 
 
                                  マーシーーの独り言

高津川で獲れたモクズ蟹

モクズ蟹 その2

我家での食べ方

モクズ蟹の美味しさは、なんと言ってもカニみそ!!
旨みたっぷりの濃厚な味、
特にカニの体の真ん中辺りに集中しているプルプルっとしてアブラのこってりとしたみそ!!
あのオレンジや黄色やからし色のいろんな色が、ぽよよ〜んぷるんと体の真ん中に集まって

スプーン(モクズ蟹は、体が小さいのでティースプーンでお願いします。)でそこをぱくり!!
服に飛び散ってしまったら洗濯してもなかなか取れないので汚してもいい服で食べましょう。
このみそは、そのままで美味しい!!!!
中には、カニ酢を付ける人も。
(ちょっぴり醤油とほんの少しの砂糖も隠し味に加えるとカニ酢も もっと益田らしくなります)
我家では、普通の米酢と砂糖と醤油の絶妙なバランスの酢醤油を母が、作ります。
でもみそには付けず、身の所を食べる時に使います。

みそは、真ん中だけでなく甲羅の隅々にもべったり付いています。
それは、オレンジ色した歯ごたえのあるもので
もしかしたらみそと言わないのでしょうか?
(ここは、佐々木さんか田中さんに専門家としてのお知恵を拝借したいです。)
真ん中のみそと甲羅にへばりついているみその味とが、違うのがこれまた素晴らしいモクズ蟹です。

身は、余りないから食べないと言う方もいますが、我家ではたべます。
箸で丹念にほじくり出します。
少しくらい骨?とは言いませんね。殻?あっ、殻といいますかね。
少しくらい殻が身と一緒に入っていても柔らかいので一緒に食べても美味しいです。
それに殻には、キチンキトサン(数年前から健康食品にもなっていますね)が、含まれていますから
健康にいいと思えば、美味しさ倍増です。
ワイルドな方は、みそを食べた後の身は、がぶり!口に頬張ってよーく噛んで美味しさを味わってください。

さて、我家では、もう一つ大切な食べ方があるのです。

まず、玄関の鍵を閉めます。
こうしないと来客の多い我家では、食べている最中に何度も手を洗い口を軽くゆすいで

玄関に出なければならなかったからです。
それから、部屋にクーラーをかけテレビを点けます。
そして心置きなく手を使い箸を使いまた、殻をしゃぶりながら
夏の甲子園決勝戦を見ていました。
因みに、このシュチュエイションは、私が中学生の頃だと思うので
既に、モクズ蟹はその頃、秋から夏の終わりに移っていたようです。
毎日食べられる物ではなかったので、美味しく楽しく食べる時は、
このようにして食べたのが、我家の食べ方、
そして私のモクズ蟹の思い出でした。

皆さんは、どんなふうに召し上がっていましたか?
味噌汁のだしのみに使っていた、などという不届き者の声も聞いたことが有りますが、

それは、ふんだんに取れた頃の話でしょうか?

次回は、東京で出会ったモクズ蟹の食べ方をお伝えします。

高津川で獲れた天然鮎