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は じ め に うたた猫さまと私は、うちの通販をきっかけに、2008年5月以来、 うたた猫さま、快く展示をご承諾頂きまして、本当に有難うございましたv では、スクロールしてどうぞ! ↓ |
カカシが目覚めた時、真っ先に目に入ったのは愛しい人の姿だった。 普段でさえ黒曜石を思わせる瞳が、涙で潤み一層輝きを増している。 少しばかりやつれただろうか。 |
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「カカシ先生。良かった…。」 イルカはいつもの忍服姿ではなかった。 その姿から、恐らくは商店街のチラシ配りか、孤児院への慰問などといった平和的な任務だったのだろうと胸をなで下ろす。 それにしても、よく似合う。…と、カカシは頬を綻ばせた。 イルカが身につけている着ぐるみは、流行に疎いカカシでも知っているグッズ用キャラクターのものだ。確かリラッ○マとか言う名前で、マスコットのキーホルダーをサクラにお強請りされたこともあって覚えている。 しかし、この着ぐるみを着ているのがイルカだというだけで、痛いほどに胸が熱くなる。 腕を持ち上げるカカシの動作は条件反射のものだった。 その途端の違和感だった。 肉体的な問題ではない。 チャクラ切れで身体が動かなくなるのは恒例だが、今回はイタチにかけられた幻術によるものだ。身体に残る異常がないことは意識の覚醒と共に認識している。 では何か。 何かどころではない!! 伸ばした腕を覆う、鎧とも言うべき代物。 |
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それのせいで、視線の先に揺れる仕草は、いつものように「おいで。」と誘うはずのお色気モードとは遠くかけ離れてしまっている。 一体、自分が眠っている間に何があったのか。 問いかけようにも、当のイルカはカカシが目覚めた喜びに感極まっている様子で、物言いたげなカカシの様子に気づかない。 【ガイのコスチュームで目覚めるのとでは、さぁてどちらがましでしょう】 |
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…などと、 それ即ち現実逃避と名の付く代物にすり替えてしまっては、正気を疑われても仕方がないところだが、幸いにもそれらは全てカカシの頭の中だけでのすったもんだだったので、傍目にはいつも通りのクールビューティ。(そこらへん、自己評価と世間の意見に対立があったにしても…だ。) 『そうだ、取り敢えずは自分を褒めてやろう。』 要するに、咄嗟に出た精神の自衛行動としてこれ以上適切な方法はないのだと、持ち前の沈着冷静ぶりを発揮して立ち向かった。 『そう、良い調子だ。そのまま落ち着いてしまえ。あくせくしたってはじまりませんぜって言うじゃないか…。ああ、それにしてもイルカ先生にはよく似合う。後ろに外しているらしいクマの頭部分も被って見せてくれないかな。あの毛皮でほっぺをくるんだら、なりふり構わず抱きしめてすりすりしたくなるんだろうな。そして、当然そのままファスナーを下ろして、肝心の輝かしい中身を…中身…。』 そうだった。重要なのはその中身。 『ダメだ。現実を見よう。取り敢えず現状を受け入れないことには、イルカ先生との感動の口づけすらままならない。』 しかし、おずおずと行き場を失った着ぐるみの手をシーツに落とした時、ベッドの下(正確にはカカシから死角になっているベッド脇)から、年若い女性の笑い声が響いた。 「その声、まさか綱手様っ??」 首だけを伸ばして覗き込んだ場所には、覚えのある後ろ姿。華奢な背中がアルマジロのように丸まって震えていた。 |
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「ちょっと、何なんですか。何年も里を離れていたかと思ったら、こんなところで何やってるんです。」 ちらりとカカシの方を振り返り、またもや突っ伏してけたたましい声を上げる里の誉れに、カカシは苛立ちを隠さず言い放った。 「何を失礼なこと言っているんです。綱手様がカカシさんを目覚めさせて下さったんですよ。術にやられて一月以上も寝たきりだったあなたを、このままじゃ衰弱死するしかなかったあなたを助けて下さったと言うのに、何て口の利き方をっ。」 怒鳴った弾みでぽろりと零れたイルカの涙にあたふたとし、カカシはもう一度ベッド脇のアルマジロもどきに目をやった。 「カカシさん?」 そこまで言うと、ようやく合点がいったようにイルカが頷いた。 「すみません、説明が遅れました。あのね、カカシ先生。これ、ただの着ぐるみじゃないんですよ。」 真剣な顔で紡がれた事実とやらは、カカシの理解の範囲を超えていた。 「信じられませんか?」 そう言うとイルカはカカシの枕元に腰を下ろし、後ろにずらしていたクマの頭部を被る。丸い大きな耳が揺れ、これまた想像以上に可愛いなぁ…などと脳を煮え立たせていると、ぽふんと白煙が立ち上がった。 「どうです?」 徐々に薄れていく煙の中、随分と低い位置からイルカの声がする。 「あなたが倒れたと言うのに、里は今こんな状態だから暗部の護衛も付けられない有様だったんです。俺の実力じゃあなたの盾にもなれなくて…。アスマさんたちが交替で、ここを待機所代わりにすることで護衛も兼ねて下さっていたんですけど、刺客の数が多すぎて、皆さんの体力にも限界がきていました。」 ベッドの縁に腰を下ろした姿勢はそのままだが、質量が圧倒的に違う。 |
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それは愛らしいとかいったレベルを越えた姿。 「そんな折、イビキさんからこの防御服を頂いたんです。刺客が俺たちにかすり傷一つ負わせることができなくなったのは、これのおかげなんですよ。いえ、彼らは攻撃そのものが出来なくなったんです。流石に刺客のくのいちが、カカシ先生を抱き上げて頬ずりした時には俺の方が殺意を抑えきれ……いえ、ともかく、そういうわけで捕縛も簡単になりまして…。」 もふりとした寸足らずの腕が、カカシの枕と化しているクマの頭を被らせる。 つまり時既に遅しと…。 「可愛い…。」 本来の姿ではついぞ漏らしたことのない形容を、目の前の茶色いクマが音にする。 「可愛いですよ、カカシさん。」 もうこの際何だって良い。大人サイズだのぬいぐるみサイズにこだわっているのは馬鹿らしかった。愛し合う者たちの再会を前にして、そんなものは障害でも何でもない。 あるじゃん…障害。 何が悲しくて自分の腕で自分の身体など抱きしめなければならないのか。 「さて、こうしちゃいられない。そろそろ行くよ、イルカ。」 嫌な予感が足下から這い上がる。この手の勘は残念ながら外れた試しがないのだ。 「まさか、綱手様…。あなたが次期火影なんてこと…。」 額をピンと弾かれてベッドに縫いつけられる。ぬいぐるみ姿のままで!! 「ちょーっとっ、せめてこの格好だけはっ。」 絶句しているカカシを尻目に、綱手はイルカをぶら下げたままにやりと笑う。 「冗談じゃない!!」 「綱手様っ、我が弟子リーの方も早く見てやって下さいっっ。」 都合良く乱入したガイに場を乱され、結局カカシはぬいぐるみのまま一人取り残された。 しくしくとふて寝の体勢に入ったカカシだったが、その後は夢も見ずに寝入ってしまった。
そして次に目が覚めた時、真っ先に目に映ったのは愛しい人の姿ではなく…。 「クマの俺の方がましだったのね…。」 カカシの腹の上で座り込み、ふて腐れた顔で煙草を吸うキイロイトリ。
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うたた猫さま、ステキなお話を有難うございましたv |
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