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は じ め に
うたた猫さまから、私が日記に載せた着ぐるみカカイルのイラストをアイデアの元にされた、
可愛い小説を頂きましたv

うたた猫さまと私は、うちの通販をきっかけに、2008年5月以来、
メール等で楽しくお付き合いさせて頂いております。
ご自身はサイトなどは開設されておられないのですが、小説を趣味で書いておられまして、
いつものメールの際に、その作品の一つを見せて頂いたのです。
その可愛いこと!面白いこと!
そして、お話としての要所要所の作りがとても素晴らしいことに感激致しまして、
ご本人にすぐさま是非にとご許可を頂いて、ここに展示させて頂く事となりました。

うたた猫さま、快く展示をご承諾頂きまして、本当に有難うございましたv
それでは皆様も、可愛い着ぐるみ小説をどうかご堪能あれ!

では、スクロールしてどうぞ!

最強タイトル

 

カカシが目覚めた時、真っ先に目に入ったのは愛しい人の姿だった。

普段でさえ黒曜石を思わせる瞳が、涙で潤み一層輝きを増している。

少しばかりやつれただろうか。
頬の張りや、肌の色に見える僅かな変化。残業で追いまくられていてさえ失われることのないそれらに、自分が倒れていた日々が思いの外長いことに気づかされる。

 
最強01
 

「カカシ先生。良かった…。」

イルカはいつもの忍服姿ではなかった。
木ノ葉崩し以来混乱した里では、アカデミー教師であるイルカも様々な任務に駆り出されている。
Dランクの里内任務なら、上忍師の代理として下忍たちを率いてこなしているのだと聞いていた。

その姿から、恐らくは商店街のチラシ配りか、孤児院への慰問などといった平和的な任務だったのだろうと胸をなで下ろす。
着替える時間ももどかしく駆けつけてくれたのかと思うと、それだけでざく切りにされた精神が癒される気がした。

それにしても、よく似合う。…と、カカシは頬を綻ばせた。

イルカが身につけている着ぐるみは、流行に疎いカカシでも知っているグッズ用キャラクターのものだ。確かリラッ○マとか言う名前で、マスコットのキーホルダーをサクラにお強請りされたこともあって覚えている。
確かに人気が出るのも頷ける可愛いキャラクターだが、店舗に並ぶグッズを前に、うっとりと見とれる趣味はカカシにはなかった。

しかし、この着ぐるみを着ているのがイルカだというだけで、痛いほどに胸が熱くなる。
可愛らしいふあふあとした毛並み。光沢を抑えた茶色い毛皮に包まれて、ごく自然な…これが本来の顔だと言っても疑われないほど自然に収まった、これまた可愛らしい顔。
額当てが外されて前髪の一部が被っているせいか、普段より三割増しで幼く見える。
可愛い、触りたい、もふもふしたい!!と、カカシがいきり立ったとして、誰が責められるだろう。

腕を持ち上げるカカシの動作は条件反射のものだった。
勿論、見慣れない着ぐるみ姿に射抜かれたのは否めないが、忍者の証である額当てを外すのは、イルカがキスを強請る合図のようなものだったから。

その途端の違和感だった。

肉体的な問題ではない。

チャクラ切れで身体が動かなくなるのは恒例だが、今回はイタチにかけられた幻術によるものだ。身体に残る異常がないことは意識の覚醒と共に認識している。

では何か。

何かどころではない!!

伸ばした腕を覆う、鎧とも言うべき代物。

 
最強02
 

それのせいで、視線の先に揺れる仕草は、いつものように「おいで。」と誘うはずのお色気モードとは遠くかけ離れてしまっている。
朝の番組で、お歌のお兄さんの声に合わせて子供達を招く、ずんぐりお間抜けキャラクターそのものだ。
もふもふとした純白の毛並みの中に、ご丁寧にもピンクの肉球まで縫いつけられているとあって、カカシはもう一度幻術の見せる夢の中に叩き込まれていくような錯覚に陥った。

一体、自分が眠っている間に何があったのか。

問いかけようにも、当のイルカはカカシが目覚めた喜びに感極まっている様子で、物言いたげなカカシの様子に気づかない。
いや、それ自体は愛されているなあ~と思うのだが。取り急ぎ、現実問題。
コスプレやらイメクラと言うには色気に欠ける全体像。
どちらかと言えば和み系・癒し系を狙った出で立ちは、イルカには似合っていても自分には………いやいや、考えたくもない。
状況判断など後回しにして吹っ飛ばしかけた意識を踏みとどまらせたものの、「羊が一匹…」などとやりかけてしまうあたり、まだまだ自分も修行が足らない。
まして、この場を切り抜ける方法として

【ガイのコスチュームで目覚めるのとでは、さぁてどちらがましでしょう】

 
最強03
 

…などと、

それ即ち現実逃避と名の付く代物にすり替えてしまっては、正気を疑われても仕方がないところだが、幸いにもそれらは全てカカシの頭の中だけでのすったもんだだったので、傍目にはいつも通りのクールビューティ。(そこらへん、自己評価と世間の意見に対立があったにしても…だ。)

『そうだ、取り敢えずは自分を褒めてやろう。』

要するに、咄嗟に出た精神の自衛行動としてこれ以上適切な方法はないのだと、持ち前の沈着冷静ぶりを発揮して立ち向かった。
もふもふとした愛くるしい着ぐるみと、あの四方八方360度どこから見ても素っ頓狂なスタイルとを単体で見比べるなら、俄然前者に軍配が上がる。
いいじゃないか、リラッ○マ。こんな可愛いキャラクターに扮せるのなら…と、思考が前のめりに突っ走り始める。

『そう、良い調子だ。そのまま落ち着いてしまえ。あくせくしたってはじまりませんぜって言うじゃないか…。ああ、それにしてもイルカ先生にはよく似合う。後ろに外しているらしいクマの頭部分も被って見せてくれないかな。あの毛皮でほっぺをくるんだら、なりふり構わず抱きしめてすりすりしたくなるんだろうな。そして、当然そのままファスナーを下ろして、肝心の輝かしい中身を…中身…。』

そうだった。重要なのはその中身。
時間にしてコンマ一秒。
自衛行動を振り出しに蹴り戻すには充分な時間だ。
着ているのがイルカであれば何の問題のない着ぐるみも、カカシがとなれば話は別である。
視覚破壊としてはある種の攻撃系忍術に匹敵するんじゃないかと、自分で自分を更に貶める思考にまで行き着いてしまう。
いや、精神汚染という意味ではイタチの幻術に張り合うほどだ。何せ気を抜けばいつ意識が深遠に引きずり込まれるか、予断を許さない状況なのだから。

『ダメだ。現実を見よう。取り敢えず現状を受け入れないことには、イルカ先生との感動の口づけすらままならない。』

しかし、おずおずと行き場を失った着ぐるみの手をシーツに落とした時、ベッドの下(正確にはカカシから死角になっているベッド脇)から、年若い女性の笑い声が響いた。
いや、笑い声などという可愛気のあるものではない。
寄席の観客が上げるものに近い、どっとこみ上げ押し寄せるような声は、とても一人で発しているとは思えないほど非常識に拡散している。
通常ならこれだけの音量に病院関係者が反応しないわけがないのだろうが、カカシが入院で世話になる部屋は音も気配も遮断する結界付きだ。
取り敢えずは助かったと思わねばならないだろう。いくら何でもこんな姿を、不特定多数の第三者に見物させるわけにはいかないのだから。

「その声、まさか綱手様っ??」
「ぷーーーーっっっっぶっくくくくくっくわっはっはっはっ」

首だけを伸ばして覗き込んだ場所には、覚えのある後ろ姿。華奢な背中がアルマジロのように丸まって震えていた。

 
最強04
 

「ちょっと、何なんですか。何年も里を離れていたかと思ったら、こんなところで何やってるんです。」

ちらりとカカシの方を振り返り、またもや突っ伏してけたたましい声を上げる里の誉れに、カカシは苛立ちを隠さず言い放った。
が、次の瞬間、肉球付きの柔らかな手に頭をぱふんと叩かれる。

「何を失礼なこと言っているんです。綱手様がカカシさんを目覚めさせて下さったんですよ。術にやられて一月以上も寝たきりだったあなたを、このままじゃ衰弱死するしかなかったあなたを助けて下さったと言うのに、何て口の利き方をっ。」
「え? 綱手様が? 」

怒鳴った弾みでぽろりと零れたイルカの涙にあたふたとし、カカシはもう一度ベッド脇のアルマジロもどきに目をやった。
しかし、話にならない。なりようもない。
どうにもこうにもいかないほどに笑い転げている女傑は、カカシの姿に反応しているのだから。
諦めて視線を戻し、カカシはぽふりと横になった。もう何が何だか、さっぱり分からない。
ただただ疲れた。それだけだ。

「カカシさん?」
「いーですよ、イルカ先生は何を着ても似合うから。だけど俺がやっちゃ洒落にならんでしょう。こんな状況で贅沢を言う気はありませんけど、寝間着代わりにするんなら、もうちょっと物を選んでもらいたかったと言うか。その…。」

そこまで言うと、ようやく合点がいったようにイルカが頷いた。

「すみません、説明が遅れました。あのね、カカシ先生。これ、ただの着ぐるみじゃないんですよ。」
「え?」
「これ、暗部の技術部が開発した最新式の防御服なんです。」
「はぁっっ????」

真剣な顔で紡がれた事実とやらは、カカシの理解の範囲を超えていた。
この、肌触りと愛らしさだけが取り柄の着ぐるみが防御服??
改めてまじまじと眺めてみるが、どの角度から触っても鎖一つ編み込んでいないことが分かるし、術吸収の印も施していないように見える。
これでは忍びにとって丸裸でいるのと大差ない。

「信じられませんか?」
「そりゃ…。」
「俺がこの身で証明したとしても?」
「いや、アナタを疑うわけじゃありません。でも、その何と言うかさすがにこんな。」
「可愛い格好?」
「そうっ、それです。それしかないじゃないですか、この服っ。」
「それが大事なんですよ。」
「へっ?」
「見てて下さいね。」

そう言うとイルカはカカシの枕元に腰を下ろし、後ろにずらしていたクマの頭部を被る。丸い大きな耳が揺れ、これまた想像以上に可愛いなぁ…などと脳を煮え立たせていると、ぽふんと白煙が立ち上がった。

「どうです?」

徐々に薄れていく煙の中、随分と低い位置からイルカの声がする。

「あなたが倒れたと言うのに、里は今こんな状態だから暗部の護衛も付けられない有様だったんです。俺の実力じゃあなたの盾にもなれなくて…。アスマさんたちが交替で、ここを待機所代わりにすることで護衛も兼ねて下さっていたんですけど、刺客の数が多すぎて、皆さんの体力にも限界がきていました。」

ベッドの縁に腰を下ろした姿勢はそのままだが、質量が圧倒的に違う。
床と並行に伸ばされた足はちんまりとしていて、上半身も三分の一以下に縮まっている。
着ぐるみ状態からぬいぐるみサイズへの変化。それだけではない。
驚いたことに、イルカはぬいぐるみのような顔つきになっていたのだ。

 
最強05
 

それは愛らしいとかいったレベルを越えた姿。
手出しのできない次元の違う生き物。
なのに思わずすり寄らずにはいられないような吸引力とを併せ持った不思議な存在。
小首を傾げて微笑まれ、痺れるような幸福感に満たされる。
カカシはひたすらうっとりとイルカの声に酔っていた。

「そんな折、イビキさんからこの防御服を頂いたんです。刺客が俺たちにかすり傷一つ負わせることができなくなったのは、これのおかげなんですよ。いえ、彼らは攻撃そのものが出来なくなったんです。流石に刺客のくのいちが、カカシ先生を抱き上げて頬ずりした時には俺の方が殺意を抑えきれ……いえ、ともかく、そういうわけで捕縛も簡単になりまして…。」

もふりとした寸足らずの腕が、カカシの枕と化しているクマの頭を被らせる。
もうもうと広がる煙の中で、カカシは今度こそ真剣に意識を闇にくれてやりたくなった。

つまり時既に遅しと…。
この姿を、悪友たちや生徒、病院関係者、他里の刺客にまで晒しまくっていたのだ…と。

「可愛い…。」

本来の姿ではついぞ漏らしたことのない形容を、目の前の茶色いクマが音にする。
この変化は、被術者だけでなく術者本人にも同様の効果があるのか、何だかもうどうでも良くなってきた。
大人サイズでなら羞恥プレイでも、この態なら問題はないだろう。向こうの鏡に映っている自分の姿は、自分で言うのも何だがなかなかのものだ。

「可愛いですよ、カカシさん。」
「イ、イルカ先生っ。あなただってっ。」

もうこの際何だって良い。大人サイズだのぬいぐるみサイズにこだわっているのは馬鹿らしかった。愛し合う者たちの再会を前にして、そんなものは障害でも何でもない。
だが、このままがっつりと抱き合おうと伸ばしたもふもふの腕は、ものの見事に空を切った。

あるじゃん…障害。

何が悲しくて自分の腕で自分の身体など抱きしめなければならないのか。
勢い余って倒れ込んだ身体をすかさず起こした鼻先では、綱手に首根っこを掴まれて持ち上げられたイルカがぷらんと揺れていた。

「さて、こうしちゃいられない。そろそろ行くよ、イルカ。」
「ちょ、ちょっと綱手様っ。」
「患者はお前だけじゃないんだ。私もこれから色々と忙しい身なんでね、こいつは当分借りるよ。」
「冗談じゃないですよーーっっ。何でイルカ先生をっ」
「こいつは三代目の秘書みたいなことをやっていたって言うじゃないか。傍に置くには適任なんだよ。」
「だからって、…え? 」

嫌な予感が足下から這い上がる。この手の勘は残念ながら外れた試しがないのだ。

「まさか、綱手様…。あなたが次期火影なんてこと…。」
「冗ーーっ談。」
「あ、ですよねー。」
「みたいな本当の話ってあるんだよね。」

額をピンと弾かれてベッドに縫いつけられる。ぬいぐるみ姿のままで!!

「ちょーっとっ、せめてこの格好だけはっ。」
「自衛のためだ、そのままでいな。」
「ヤですよ、こんな後生まで笑いものにされそうな格好のままなんてっ。」
「馴れろ!!どーせこれからも世話になるんだからな。」

絶句しているカカシを尻目に、綱手はイルカをぶら下げたままにやりと笑う。
つまり今後の病院送りでは、カカシの身は否応なくこの着ぐるみとセットにされるということだ。

「冗談じゃない!!」
「護衛に通ってた連中だって着ていたというじゃないか。むさ苦しくなるならまだしも、そんな可愛い格好にしてもらって何が不満なんだい。」
「悶絶状態で笑っていた人がそれを言いますかっ。」

「綱手様っ、我が弟子リーの方も早く見てやって下さいっっ。」
「おう。」

都合良く乱入したガイに場を乱され、結局カカシはぬいぐるみのまま一人取り残された。
せめてイルカが残ってくれていたら、この状況もきっと楽しめたはずなのに。

しくしくとふて寝の体勢に入ったカカシだったが、その後は夢も見ずに寝入ってしまった。
幻術の痛手は思っていたより深く、一月以上もの眠りはまがい物に過ぎなかったのだと思い知らされるほど。

 

 

そして次に目が覚めた時、真っ先に目に映ったのは愛しい人の姿ではなく…。

「クマの俺の方がましだったのね…。」
「ほっとけ。」

カカシの腹の上で座り込み、ふて腐れた顔で煙草を吸うキイロイトリ。
ほんの少しだけ救われた気がするのだが、所詮は五十歩百歩なのだろうか。

 

 
最強06
 
end

うたた猫さま、ステキなお話を有難うございましたv

 
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