十字架の道行
乙女峠の広場から殉教者の墓のある「至福の園」(広場案内地図G)まで600メートルの山道は、「十字架の道」です。
エルサレムで、ローマ総督ポンシオ・ピラトの官邸から町の外、カルワリオという丘まで、イエズス・キリストは自ら十字架を運びました*。その道はVIA CRUCIS(十字架の道)と言われて、初代教会から今日まで巡礼の場になりました。
人々はキリストの救いのみ業を、十字架の道の十五留を通してたどりながら、自分との係わりを黙想する、これが十字架の道行の祈りです。
*新約聖書: マタイ福音書 27章11-66節, マルコ福音書 15章1-47節,
ルカ福音書 23章1-58節,ヨハネ福音書18章28−19章 42節
始めの祈り
救い主キリストよ、私たちは今日、乙女峠の殉教者の遺徳をしのび、ここに集いました。これから私たちは罪の贖いのためにあなたが歩まれた十字架の道を思い浮かべて祈ります。 乙女峠の殉教者たちもあなたの苦しみの道を思い起こしながら、信仰を守り通しました。 自分の十字架を背負って私に従いなさいと仰せになったあなたに信頼し、私たちもまた自分の十字架を背負って生涯を全うできますように祝福と導きをお願いいたします。
第一留 キリスト 死刑の宣告を受ける
キリストはとらえられて法廷に立たされます。大祭司たちはキリストを十字架につけるように要求し、
ピラトはキリストに死刑を宣告します。
1868年7月、長崎の役所で、「仙右衛門を頭に28名は、石見の国4万3千石、亀井隠岐守に預け
置く」 と申し渡されました。
主イエス・キリスト、あなたは群衆の訴えや、ピラトの宣言の耐えがたい不正を忍びました。あなたに
ならい、仙右衛門たちにならって、苦しみをたえ忍ぶことができるように、わたしたちを助けて下さい。
第二留 キリスト 十字架を担う
キリストは十字架を背負い、ゴルゴダの丘に向かって苦しい道を歩き始めます。
仙右衛門たち一行は船に乗せられて長崎を送り出され、広島の廿日市からは山道を歩かされ、
津和野に向かいました。道中、仙右衛門たちは朝夕の祈りを欠かさず、天の父にすべてを委ねて
いました。
主イエス・キリスト、あなたは十字架を天の父から与えられたものとして、進んで担いました。あなた
にならい、仙右衛門たちにならって、わたしたちにも自分の十字 架を担う力を与えてください。
第三留 キリスト はじめて倒れる
キリストは、重い十字架を背負ってゆく道で、疲れて倒れます。刑吏達はキリストを荒々しく引き
起こし、無理に歩かせます。
津和野に送られたキリシタンたちは、畳をはがされた牢の中で、真冬にも夏の薄い着物のまま、布
団の代わりに筵(むしろ)を1枚あてがわれたのみで、棄教を迫られました。その苦しみに耐えきれ
ず、16名が信仰を棄てました。厳しい仕打ちと執 拗な説得にもひるがえることのなかった和三郎は
三尺牢に入れられ、なおも責め続けられましたが、最後まで堅く信仰を守り抜きました。
主イエス・キリスト、あなたは起き上がり、歩き続けます。あなたにならい、和三郎にならって、わたし
が失敗し倒れたとき、立ち上がることができるように、支えてください。
第四留 キリスト 母に会う
キリストは刑場へ向かう道でマリアに会います。キリストの苦しみを見て、マリアの心ははげしく痛み
ます。
和三郎に続いて三尺牢に閉じ込められた安太郎のもとに毎夜、聖母マリアが現れ、物語を語り聞か
せました。「この三尺牢は十字架だと思います。母に伝えてください。ここでイエスさまと共に死ねるの
は、この上ない幸せですと」。そう語った数日後、安太郎もまた、天に召されました。
主イエス・キリスト、あなたは悲しむ母を見て、いたわり励まします。あなたとともに十字架の道を行く
マリアのあとに、また安太郎のあとに、わたしたちを続かせてください。
第五留 キリスト クレネのシモンに助けられる
キリストは十字架を担い続ける力がなくなります。刑吏達は通りかかったクレネのシモンに、むりに
十字架をかつがせます。
安太郎は、自分にあてがわれた食物もつとめて人に譲り、人のやりたがらぬことを聞かされた甚三
郎は、後に「安太郎さんは聖人ではなかろうか」とも記しています。
主イエス・キリスト、わたしはあなたのことばに従い、すすんで日々の十字架を担います。また、
安太郎のように柔和と謙遜を忘れず、苦しむ人々を助けることができるように、わたしを励まして
ください。
第六留 キリスト 布で顔をぬぐう
ベロニカは人を押しわけ、前に進み出て、顔をふく布をキリストに差し出します。キリストは布を受け
取って顔をぬぐいます。
甚三郎は竹をかみ砕いて筆とし、消し炭を擦って唾で溶かし、ちり紙に 「先の者は12名、依然
心を変えずに新牢に残っている」 と書き置き、後から津和野に送られてくる仲間たちがだまされて
迷うことのないように心を砕きました。
主イエス・キリスト、あなたはベロニカの親切に慰められました。ベロニカや甚三郎のように勇気を
もって、ひとに好意を示すことができるように、わたしたちを力づけてください。
第七留 キリスト ふたたび倒れる
キリストはひどく疲れて、ふたたび倒れます。キリストの上には、私たちの罪の重みがのしかかって
います。
祐次郎は、道端に建てた十字架に裸でくくりつけられ、竹の棒でつつかれました。さらにお寺の縁側
で、衣服をはがれ、柱に縛りつけられ、容赦なく鞭で打たれました。痛みと苦しさのあまり、祐次郎の
口から、うめき声と泣き声が漏れました。
主イエス・キリスト、あなたはますますひどく苦しみを感じます。あなたの重荷となっているわたしを、
罪から悔い改めさせてください。
第八留 キリスト 婦人たちにことばをかける
婦人たちはなげき悲しみながら、キリストのあとについて行きます。キリストはふりむて、戒めの
ことばをかけます。
祐次郎は、苦しい息の下から、姉のマツに言いました。「もうとても耐えられまいと思った時、屋根の
上に雀の親子の姿が見えました。親雀が小雀に餌を与えるのを見て、雀ですらわが子の世話をする
のだから、天の父が私の世話をしてくださらないわけがない。そうと分かってからは、私は泣きません
でした。」
主イエス・キリスト、罪のないあなたがこれほど苦しめられるなら、罪深いわたしは、いったいどう
なることでしょう。自分をいつもかえりみることができるように、わたしを助けてください。
第九留 キリスト みたび倒れる
キリストは疲れ果てて、みたび倒れます。しかし、力をふりしぼって起き上がり、刑場へたどりつき
ます。
祐次郎は、いよいよ最期が近づいた時、辛かろうと慰めるマツに、「そんなに辛くはありません。
天国に昇ったらみなさんのために祈ります。信仰を棄てずに終わりまで辛抱してください。子供に
罪はないのだから泣かせてはいけません。大人は罪があるから償いをせねばならないということを、
他の人に教えてください」 と伝えました。
主イエス・キリスト、あなたはどこまでも救いの使命を貫きます。どんなことがあっても、救いへの
希望をわたしに持たせてください。
第十留 キリスト 衣服をはぎ取られる
刑吏達はゴルゴタの丘でキリストの衣服をはぎ取ります。キリストは人々のまえで、さらしものに
されます。
後に津和野に送られたキリシタンたちも、1日に与えられる米は飯は一人1合3酌、親指大の味噌
と、ひとつまみの塩のみ、小桶一杯の湯に1枚のちり紙しか与えられず、毎日棄教を迫られ続け
ました。
主イエス・キリスト、わたしたちがはずかしめられても、あなたにならうことができるように、
わたしたちのそばでささえてください。
第十一留 キリスト 十字架にくぎづけられる
刑吏たちはキリストの手足にくぎを打って十字架にはりつけます。十字架は立てられ、キリストの
苦しみはますますひどくなります。
6歳の少女モリちゃんは、役人から「キリストが嫌いだといえば、おいしいお菓子をあげるよ」 と
誘惑されましたが、「天国の味はもっとおいしい」 と答え、数週間後、飢えのために小さい命を落とし
ました。12歳の末吉は、両手に油を塗られ、火をつけられても、信仰を棄てませんでした。
主イエス・キリスト、あなたは最後まで苦しみを耐え忍びました。モリちゃんや末吉のように、わたし
たちにも苦しみを耐え忍ぶ勇気と力を与えてください。
第十二留 キリスト 十字架で息を引き取る
人々はキリストにあざけりと冒とくのことばを浴びせます。キリストは人々のために、天の父にゆるし を求めて息を引き取ります。
棄教した人たちからの助けも得ながら、キリシタンたちは数々の責め苦に耐え続けました。長い間、
食事を減らされ続けたことで気力も体力も衰え、ついには食べる力さえなくなっていきました。津和野 の殉教者は37名となりました。
主イエス・キリスト、あなたは悔い改める盗賊の願いを聞き入れました。あなたを信じる人々を
天国へ導いてください。
第十三留 キリスト 十字架から降ろされる
刑吏のひとりが槍でキリストのわき腹を突き刺し、キリストの死を確かめます。アリマタヤのヨセフは
ピラトに願って、キリストのからだを十字架からとり下ろします。
三尺牢で天に召された和三郎、聖母マリアに慰められた安太郎、雀の親子に希望を見出した
祐次郎、役人の誘惑を退けたモリちゃんをはじめ、津和野で殉教した人々は皆、浦上村では実直で
素直な、普通の百姓として暮らしていたキリシタンでした。
主イエス・キリスト、母マリアと弟子たちは、十字架からおろされたあなたのからだを受け取りまし
た。あなたを受け入れることができるように、私の心を開いてください。
第十四留 キリスト 墓に葬られる
弟子たちは埋葬のしきたりに従って、キリストのからだを布で巻き、岩に掘った新しい墓に納め
ます。
長きにわたった責め苦にも、終わりの兆しが見えてきました。少しづつ食べ物が増やされ、衣服も
与えられ、拷問もなくなり、日雇い稼ぎも許されるようになりました。そしてそして1873年、キリシタン
たちは故郷に帰ることが許されました。役人たちは 「お前たちは信念で生き抜いた。武士なら立派な
武士だ」 と甚三郎たちを誉め称えました
主イエス・キリスト、あなたはこの世に来ましたが、この世はあなたを受け入れませんでした。
あなたがひろくこの世に受け入られるように、わたしに努めさせてください。
第十五留 キリスト よみがえる
キリストは予言のとおり、三日目に復活します。弟子たちはいのちをかけて、キリストの復活を
世にあかしします。
1873年6月、仙右衛門、甚三郎をはじめ、信仰を守り抜いて生きなが42名のキリシタンたちは、
故郷、浦上に帰ることを許されました。彼らは苦しみのあまり信仰を棄てた人たちのためにも祈り、
許しを請いました。津和野の殉教者たちと、弾圧に耐え抜いた人たちの偉大な信仰は、今も脈々と
生き続けています。
主イエス・キリスト、あなたは復活し、天の父のもとに帰ります。あなたとともに十字架の道を歩む
わたしたちが、津和野の殉教者たちに倣い、復活の希望のうちに信仰の道を歩み続けることが
できるようにお導きください。
結びの祈り
天の父よ、あなたは一人子イエス・キリストの尊いご苦難によって、苦しみの十字架を祝福のしるしに
代えてくださいました。十字架の道行きを終える私たちにあなたの恵み平和を与えてください。
私たちの主、イエス・キリストによって。